『見ること』を読んでみた  ジョゼ・サラマーゴ 著  雨沢泰 訳

  名前を出さず役職や妻とか夫とかで人を表す奇妙な小説です。しかもページには文字がびっしりで改行や段落は僅かですから、とても読み難い。ちなみに邦題は『見ること』だけど直訳すると『明晰さについて』とでてくる。


 選挙で白票が多かったために再選挙したがまたもや選挙の有効数には及ばなかった。このため政府は首都から立ち退き、首都を包囲するという荒唐無稽な構成で展開される。日本では法廷得票数を確保できれば当選となるので、白票数が多くても有効得票のなかで一定以上の票を集めれば有効となる。
 白票を投じた市民が8割以上なのだけど、理由は明らかにされない。政府は市民を矯正する方向で圧力を掛けるのだけど、サスペンスのような入り組んだ話はなく呆気にとられるくらい浅はかな筋道が本の半分くらいまで進む。
 その後はなぜか、著者の代表作である白の闇に出てくる主人公が登場する。それで興味深い展開になるかと思いきや前半の惰性が続き、とてもつまらない。ノーベル賞作家なので意図的なのだろうけど、それが何かは皆目見当がつかない。理知的な風貌の評論家がわかったようでわからない横文字を並べそうだけど、ひとつだけ分かることがある。それは忍耐だ。