カートリッジを不注意から壊してしまったので、オルトフォンのMC Candenza Redを買ってみた。発売当時からしたら2倍近い価格になっているので中古を探した。一番古い物だと既に15年も経っていてダンパーの劣化などが心配になるが、オルトフォンのSPU GEはもっと古いのだけど問題なく動作しているので大丈夫だろうと思う。
スペックは出力電圧が0.45mVと高く、針はNude Fine Lineとなっていて楕円ばりの種類、針圧は2.5gとなっている。針をレコードに落としてみる、重い針圧だけどカンチレバーが沈み込むようなところはなくダンパーは問題ないようだ。Kontrapunktのシリーズがいいなぁと思っていたのだけど、その後継の新たに出たCandenzaの方が現代的かなと思って選択した。
その通り、HiFiな切れ味の良い鳴りっぷりで明瞭な音の造形を描く。最初はトランスをオルトフォンのTC30で聴いたのだけど、低音が膨れすぎてしまいバランスが崩れる。低音がしっかり出ているようなのでタムラのマイクトランスに変えてみた。SPUと同じように骨格のしっかりした太い音になっていいのだけど、何故か切れ込みが甘く、かといって緩やかな柔らかい音でもない。どうもフォノイコライザと合わないような、真空管のエレクトロ・ハーモニックのせいかもしれない。そこで素直なL-550AX2のフォノイコを使うことにした。カートリッジセレクトをMCにしてヘッドアンプを使ってみる。
エヴァンスのヴィレッジ・ヴァンガードを聴く。いつもは二人の陰に隠れたような引っ込み思案のポール・モチアンのシンバルが鋭く聴こえる。ラファロのウッドベースの低音もより低く力強い、ピアノのタッチも伝わる。次にチック・コリアとゲイリー・バートンのライブを聴く、ゲイリーのヴィブラフォンのバイブレーションがきつくて少しハウリングする。どうも圧縮が効いていてバイブレーションされた録音はカートリッジの感度が良すぎてアラがでる。他のカートリッジでも似た傾向なのでマスタリングの問題だと思う。そしてマイルスのライブ盤、プラグド・ニッケルを聴く。これはただでさえトニーのとても速いシンバルに感心するのだけど、一音一音の切れ方を感じるところがたいしたものだと思う。
バーンスタインのショスタコーヴィッチ第5番を聴く。東京のライブ盤自体が凄いのだけど、出だしの緊張から解き放れるときの張り詰めた空間がよく再現され、自ずと緊張してしまう。次にオイストラフの太公を聴く、これはレコード自体があまり良くないのだけど、スクラッチノイズの拾い方はひどくはないし、レコードのアラが強調されるようなこともない。オイストラフの弦が伸びやかで綺麗ではあるものの大公の持つ優雅さのような雰囲気は後退するように思える。エミール・ギレリスのライブ盤、観客の咳が劇場の空間の広さを抱かせ、リストのソナタが鮮やかに鋭く響き、ピアノの立ち上がりの良さを感じさせる。