シャギー・ベインを読んでみた  ダグラス・スチュアート 著 栗原敏行 訳

 スコットランドはグラスゴーに住むドランカーの母と少年シャギーとその家族にまつわる1981~1992年のお話し。ちょっと素敵な本というのは出だしがイカシテル。1992年15歳の生活から始まりフラッシュバックするのを見て、プライベート・ライアンや英国の古い戦争映画を思い出した。 


 10年という歳月を費やして完成した本なのだけど、文体が変わっていないのに驚いた。訳をする時にニュアンスがあってしまったのか、何回も書き直しているのか判然としないけど、情景を捉えるセンスは見事な文体です。

 ドランカーの母に邪険にされたり可愛がられたり、怒鳴られたりしながらも母を愛している少年、憐憫と哀愁が漂うのだけど、それだけでは600ページもの文章を読めない。日常の描写の卓越さと人の息がふっと耳元を騒がせる行間が凄いのだと思う。

 だから、年代は違うし街もグラスゴーではなくてロンドンだけど、『さらば青春の光り』に出てくる家庭のシーンを思い出し、『わが谷は緑なりき』という英国の炭鉱の映画の家庭をも思い出した。映像を呼び起こす文章は素敵だ。

 サッチャーの時代に老いた国家からの脱皮を図っている時だったけど、でも英国はゆりかごから墓場までと言われた片鱗を垣間見ることができる。そして、セルティックがカトリックのファンの集まりなんて知らなかった。やっぱりスコットランドはスコットランドであって、イングランドではないのだ。文字からこの時代の風が吹くのに驚きばかりだ。

 少年は自分のしたいことを見つけて生きてゆく。それがまた眩しく、パンドラの箱なのだと思いたい。