砂漠に生まれ育った二人の少年少女の眼から見た、砂漠に生きる人々のドキュメンタリーのように描かれている。物語の展開や内面的な思考がメインではない中で生きている空気の雰囲気が漂い、目の前に映像が流れているかのように文章に曳かれる。いわゆる文間を味わう妙味です。
二人の少年少女はストーリーテイラーでもあり、主人公でもあるけれど、もう片側の主人公は二人の老人の生であり死であると思う。そして二人につながりはないけれども、青い民の末裔としての神話が支えているように思える。
少女ララはマルセーユへと渡るけれども、都会もまた砂漠のようである。それで東京砂漠という唄を思い出し、砂漠の中の文を読んでいるとなぜかカミュも思い出してしまった。ナイジェリアに幼少のころに過ごした場所だし、カミュはアルジェリアに生まれていたから、どちらも砂漠は身近なものだったせいなのかもしれない。
巻の終末を読んでいる時にグレン・グールドのゴールドベルク変奏曲が流れていて、素早いテンポなのにどことなく物悲しく呟くように、より早く弾くピアノは呻きのように聴こえたのはクレジオの魔法のように思える。