ファウスト ゲーテ 著 高橋義孝 訳

  ファウストを30年ぶりぐらいで読み返しています。なにせメフィストフェレスの名前ぐらいしか覚えがない本で読み返すというには少々語弊があるようですが、とりあえず第一幕を読み終えました。

 悪魔の名前ぐらいしか覚えていないのが判りそうな内容で、名作と云われる所以が行方不明になりました。いくら伝説を基にしているとは言え、骨格に創作部分がないように思える。第一部は1803年の発表といわれるのを考えると神の無について率直に応えている点が時代としては凄いのかも知れない。悪魔と契約しているのだから表面的には神が存在していることを前提としてるけど、若い女性のグレートヒェンに信仰を問い詰められてはぐらかしているのが面白い。



 それにしても偉大な賢人が悪魔と取引して世の中の森羅万象を極める旅が恋の道なのは得てして妥当なのかもしれない。若いころから勉学に励み振り向いてみたら多感な時代を過ぎ去ってしまい、最も愛に純情で昂揚的な青春に引き込まれたわけだ。確かに戻っては見たいものの過去の記憶は消して欲しくなるように思える。そして誑かされたグレートヒェンは恋のために罪を犯し、悲しいい末路をたどるのだけど、神の思し召しがあるのは皮肉なのだろうか。いずれにしても賢人も人殺しになってしまうのだから、一寸先は闇なのでしょう。気を付けなくては。

  第Ⅱ部では第Ⅰ部で恋をして捨て去り不幸にしたグレートヒェンを憐れむのだけど、すぐに忘れてギリシャ神話に出てくるトロイアの美女ヘレネーを追いかける有様で、賢者とよばれたファウスト博士はどこにもありません。それに、冒頭で底の底にある母の国へ出かける際にメフィストフェレスから鍵を渡され、それがあれば無事にもどれるだろう。なんて言われるのだけど、次のページでは何事もなかったように戻り、昔の博士の部屋になってしまう。何十年もかけて書いているので構成が飛んでしまうのだろうけど文豪なんですよね。



 弟子のワーグナーが造ったホムンクルス(人造人間)に導かれて、ギリシャ神話の古へ行くのだけど、通り道が魔界で悪魔のメフィストフェレスが戸惑っていると、北の悪魔だからしかたないと南の魔女に諭されるところが笑える。メフィストフェレスは一説によると堕天使の長であるルシファーと同格なんて言われるが、とてもそうは思えないし、これが悪魔なら禍を起こすのは人間なんだと思える。

 ヘレネーを誘惑して引き連れてくるところはトロイの神話通りで、戦争に負けそうな皇帝を妖術で助けて海辺の領土を収め宮殿を建てるのだけど、目障りな教会と宿舎を追い払おうとして焼き殺してしまう。人を助け、勉学に励んできた晩成がこの体たらくである。どんなに賢人でも一皮むけば金と女ということなんだろうか、そうとも思えないのでこの話はおとぎ話なのだと思う。それにしてもエンディングはあほらしい。