マイルス・デイビスのレコードを年代順に並べて聴いてみた


Miles Davis and the Modern Jazz Giants

 これとBags Grooveの2枚はクリスマスの日に録音された同一セッションで、2枚とも優れたセッションだから両方聴くとより愉しいし、同じ曲の別テイクがあって、ジャズって瞬間なんだなぁとしみじみ思う。まぁ喧嘩セッションと言われて有名ですし、聴けば聴くたびに効いてしまう音でいつでも生きてるんです。

 モンクが弾くのをやめたテイクがA面の一曲目にあるところに、このLPの凄さが出ててると思う。モンクのソロが始まるとモンクらしい不協和音のような旋律を一音一音ゆったりと弾くのだけど、的確で早いドラムとベースのリズムセクションにあっている。だけど、ピアノの音が無くなるのにベースとドラムは変わりなく、ごく普通にリズムを刻む音がこれまたカッコイイ、ベースはパーシー・ヒース、ドラムはケニー・クラークのMJQの二人です。そして後方からトランペットのメロディが挿入されるとピアノを再び弾き始める。



 B面の1曲だけがメンバーが違って、マイルスクインテットのメンバーでセロニアス・モンクの曲をやってて、コルトレーンのサックスがこれまたいいんです。マイルスのアルバムは出ている人みんな主役になるところが好き。

 あとこれモノラル録音なんですが、MONOのカートリッジがないのでSTEREOのカートリッジで聴くのですが、右からノイズが出て困ってました。レコードがモノラルでも両側に溝はあるようで、微妙に左右から音が出るのです。そこでアンプにMONOモードのあることを思い出してスイッチを入れたところ、左右の音がミックスされるので消えるわけではないのですが、耳障りではなくなり音に張りが出てきてエネルギー感も加わって良い塩梅ですので、MONOモードで記録してみました。


Bags Groove

 クリスマス・セッションのもう1枚です。A面の1曲目の出だしを聴いた瞬間に、あっあの曲だと気づきました。有名な曲なのでどっかで聴いているのですが、このLPとは知らずに買っていることが笑えます。ミルト・ジャクソンのビブラフォンが冴えわたる名曲ですよね、ビブラフォンの響きが心地良く、こんなにジャジーなんだと思えるし、余韻の消え方が弦ともピアノとも違ってちょっとぬくもりが蕩けるようにスピーカーが鳴ってくれると嬉しいです。そして、同じ曲を別テイクで2曲続けてあり、これでA面が終ってしまうのですが、聴き飽きるということがありません。



 Miles Davis and the Modern Jazz Giantsとあわせて凄いメンバーですよ、MJQの3人であるミルト・ジャクソン、パーシー・ヒース、ケニー・クラーク、それにピアノの大御所であるセロニアス・モンク、そしてソニー・ロリンズまでいる。是非聴いておきたい2枚です。



ラウンド アバウト ミッドナイト

 写真のネガを見ているかのようなジャケットが印象的で、コロンビアと契約した最初のアルバムです。これを録るにあたってプレスティッジと残っていたアルバム4枚を同時期に録音している。俗にいうマラソンセッションと呼ばれていて、クッキンなどが有名である。このアルバムも同じ匂いのするジャズで、このころの音は何も考えずに音に乗れて好きである。



 メンバーは、ジョン・コルトレーン、レッド・ガーランド、ポール・チェンバース、フィリー・ジョー・ジョーンズという豪華スターである。チェンバースとジョーンズのベースとドラムのコンビはアートペッパーのリズムセクションなど他の有名なアルバムにも参加していて、どれもマイルスの香りがする。このアルバムからマイルスは有名になっていくのだけど、恩師であるチャーリー・パーカーが若くして亡くなって引き継いだようにも思える。

 マイルスの凄い所はジャズの枠組みを変えてしまうところで、恩師のチャーリーが作ったビバップからクール、モードへと変化し、そしてフュージョンへと切り開く才能は桁違いだと思う。



カインド オブ ブル

 余りにも売れたレコードで未だに売れ続けているアルバムである。兎に角、A面の一曲目を聴いただけで圧倒される。テンポの速いビバップとは違いゆるりとしたテンポで力強いベースラインがうねるなか、官能的なソロが響き渡る。それにガイドするかのようにピアノが絡んできて、絶妙なアンサンブルが出来上がる。ビル・エヴァンスをこのレコードのために引き戻したのがよく分かる。それにアルトサックスがこれまた気持ちいい。これでキャノンボール・アダレイを気に入ってしまった。



 モード・ジャズへの道を切り開いた意味でも有名だけど、なにせフュージョンから聴き始めているから、モード・ジャズと言われてもよく分からなかった。もっともビバップのコードのしきたりすら、よくわからないのだから音楽を聴くものとしては聴いて気に入ればそれでよいと思う。絵画でもそうだけど、基本的に解説は読まないけど、観て気に入ればよいのである。

 一曲目のタイトルは「So What」、これはマイルスの口癖らしいけど、だから何?っていう時を超える出来栄えを指しているようだ。



スケッチ オブ スペイン
 これもまたジャケットのデザインが印象的で、上部が橙色、下部が赤茶色、大地に黒い影絵のトランぺッターがお腹を突き出して吹いている。それをじっと聴き惚れている牛がいる。その牛の方が小さくてマイルスの方が偉大だと言っているかのようだ。いかにもスペインを彷彿とする絵で名作だと思う。アランフェス協奏曲を編曲してはあるけれど、トランペットで刹那的に滲み出る風景がジャケットの絵そのものであり、なんだかドンキ・ホーテが出てきそうな雰囲気になるぐらい、Sketches of Spain(1960年)なのです。




 サムシング・エルス(1958年)でシャンソンの名曲である枯葉をジャズにして、今ではジャズの名曲になっているぐらいだから、フラメンコもまたジャズに通じるということなのでしょう。これを最初に聴いたら、ジャズが最初でクラシックは編曲だと思うぐらい良くできていて、聴き終わってもしばらくの間はスペインから抜け出せない。


Cookin at the Plugged Nickel
 1965年12月にシカゴのプラグド・ニッケルでのライブ盤、ボックスセットはCD7枚という対策ですが、これはLP1枚のハイライト盤です。これはLPなので4曲しかありませんが、アメリカのハイライトCD盤だと選曲も一部違うようだが6曲でSo Whatもはいっているようだ。


 メンバーは黄金クインテットと呼ばれるハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、トニー・ウィリアムスです。スタジオアルバムのESPやソーサラーなどを聴くとまとまった綺麗なジャズなんですが、このライブは違い将にジャズなんです。5人の各々のポテンシャルが高く、エネルギッシュですさまじい。これをライブで聴けた人たちは仕合せだなあとつくづく思います。好きなように音をぶつけてくるのに音楽としてまとまっちゃうのが凄いし、どんどん引き摺りこまれてゆく。これを聴いていると2日間のすべてが入っているアメリカのCD8枚組のボックスセットが欲しくなっちゃいます。



E.S.P
 黄金クインテットと呼ばれるスタジオ録音4部作の1作目です。タイトルはExtra Sensory Perceptionの短縮後で超感覚的知覚と言われています。〇や☆の絵が描いてあるカードを当てるテレパシー能力を訓練するESPカードが有名です。でも、ジャケットの写真は普通に女性と映っているだけと言うのが、なんとなく味気ないです。


 マイルスの作曲より合作が多く、メンバーの作曲もあり、グループとしての創作が強まっていく時期で全体的に整った音調に聴こえ、Plugged Nickelの方がメンバーのインスピレーション力が発揮されていて、ESPの名に近いように思います。4部作ともに録音されている音圧が低く感じられ、マイルスの持つとがって深くうねるところが少ないように思えてちょっと残念です。


ビッチェズ ブリュー
 1970年3月にリリースされた2枚組のアルバム、エレクトリックなサウンド満載でモダンジャズとは別世界なのが出だしの音ですぐわかる。フュージョンと呼ばれるジャンルの音そのものだと感じるほど記念碑的アルバムというだけではないと思う。メンバーもすごくて、ジョン・マクラフリン、ジョー・ザビエル、チック・コリアとフュージョン界を背負った面々ばかりです。


 音楽的にはフュージョンですが、音的には現代音楽の無調的で効果音のような響きが多用されていて、近代における発芽が満載のように聴こえます。それでも、単純にカッコイイと思えるところがマイルスらしいところです。1曲が長いので、タイトル曲は27分もあり、ちょっと流されてしまうようなところもありますが、クラシックのように聴けるのも味わい深いです。曲の持つ多様性が輝きを失わず気持ちよいです。


Man With The Horn
 マイルス・デイビスが5年の沈黙を破って復活した1981年の意欲作で晩年に作成した1枚目です。録音当時55歳ですが、音は鮮烈でフュージョンよりポップな色合いが強い気がします。復活と聞いてすぐに買ったレコードで、録音も優れていて出てきた音に圧倒されそうになってことを鮮明に覚えている。かなり昔のことなのに、今聴いても凄いと思う。5年の沈黙がエネルギーになって炸裂していて、痛快なまま片面が終る。


 そして裏面に移り、タイトル曲になるとなんとヴォーカルが入っている。これには驚いた、マイルスのレコードを聴いて初めてヴォーカルを聴いたのだから。常に変化するマイルスだけど、記憶に残る一枚である。


Decoy
 復活してから4枚目で1984年のリリースで、1曲目のタイトルがアルバムタイトルにもなっている。ダークな感じのジャケットでマイルスの頬がこけて眼が大きく見開いて精悍なイメージを受ける。


 マイルス単独の作曲は1曲Freaky Deakyだけで、2曲シンセサイザーを弾いているアーヴィング3世、残りはマイルスとギターのスコフィールドとの合作、ギターのソロ部分を聴いているとR&Bのように聴こえてくる。なんとなくだけど黄金クインテット時代のスタジオアルバムようにまとまりのある音に聴こえ、なにか足りないように思うのは単独の曲が少ないせいなのだろうか。マイルスのトランペットはときおりJazzだよなと思わせる吹き方になって興味深い。