LHH300のオペアンプをOP42とMUSES03に替えてみた

 LHH300も出た当時に購入して30年になる。でも、よく聴くようになったのは最近で、クラシックを聴くようになりレコード盤がなくCDならある録音を購入するようになったためだ。まさかレコードよりCDの方が安くなるとは思わなかった。レコードはスクラッチノイズなど傷みやすいけどCDは中古でも問題のあるものは少ないから中古で安く良いものが買える。LHH300の音質は穏やかで何の変哲もないから、Belden88760にケーブルに替えて良くなったものの物足りない。そこでオペアンプをいよいよ替えてみることにした。そこでどのオペアンプにするのか随分と思案した結果、アナログデバイセズのOP42とJRCのMUSES03Dを選択した。どちらも有名な高性能オペアンプでスルーレートが際立っているのが特徴だ。他にもいろいろあるけれど、高速オペアンプは発振しやすいみたいなので記事を読む限り発振しなさそうな物を選んだつもりだ。しかも、MUSES03は偽物が出回っているとのことなので正規販売店の秋月電子から買うのだけど、なんと品切れをしている。高価な部品なのに人気が高いようで、高級なCDデッキを買うことを思えば安価なんでしょうね。LHH300はJRC5534Dが4個ついているので、OP42MUSES03Dを2個ずつ買って組み合わせることにした。






 LHH300を開けると、緑色の基板はデジタル処理関係でアナログ関係は茶色のベークライト基板だ。DACからきているコネクタに近い方が前段で出力端子に近い方が後段のようだ。ついているJRC5534Dも含めて前段、後段を組合わせて音質を確かめてみようと思う。LHH300はアルミダイカストのシャーシーに基板がついており、取り外しもしやすくて助かる。基板を外して裏のランドを見ると小さくて半田の量も少ないので吸い取りが難しそうだ。こういう時は先に半田を盛ってから吸い取るのが良いと記事にあったので、そのように対応してみると案外と楽に取り外すことができ感謝である。黒い電解コンデンサが5つあり、その内3つはブラックゲートだ。ESRテスターを買ったのでコンデンサの残量を調べてみると1割程度しか減っていないようなので良しとする。温度が上がらないし使用時間が短いせいだと思うけど、メーカーの資料には15年が目途のように書いてあるから問題はあるのだろうけど。丸ピンのICソケットを方向に注意して嵌め込み半田付け、今回はDAYTON AUDIOの少し安い銀入り半田を使う。Iphoneのカメラで拡大して半田がブリッジしていないか確認して、オペアンプの向きをICソケットの方向にあわせて載せる。今回は問題なく音が左右から出てほっと胸をなでおろす。



★前段:OP42  後段:JRC5534D

 出てきた音は聴きなれた音でおとなしく変わり映えがしない。そんなものなかと思いながら暫く聴いていると、リヒテルのピアノが落ち着いてきて右手の高い音の響きが僅かに鮮明になり、輪郭が出てくるようになった。でも、もっと高い音は相変わらずキンキンして心地よくない。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンは高音域の伸びやかな若さが出てきた。そして何よりも曇ったようなオーケストラの音に締りが出てきて薄日が差したかのように思う。



★前段:MUSES03D  後段:OP42
 一聴して音が緻密になっているのが解かる。どの音域でも響きが増してリヒテルのピアノのタッチ感が滲み出てくる。もっとも高い音の鍵盤はキンキンせず、すぅーっと減衰して心地よい。音の緻密さが音楽の滑らかさとエネルギー感を合わせて拡がる。ヒラリー・ハーンの弦が滑らかに透き通るように鳴りだし、オーケストラの音が分離され晴れ間が見えるようになった。奥で籠っていたオーケストラと一人ヴァイオリンが鳴っていた距離感が縮まり、音場が見えるようになった。MUSES03Dの繊細さが緻密な音になって現れ、4Kテレビの鮮明な画像に変わるかのようだ。そして、緻密だからこそエネルギー感も出てくるように思われる。



★前段:OP42  後段:MUSES03D
 基本的に入替前と同じテイストだけれども、リヒテルの鍵盤を叩く音が僅かに優しい。もっとガシガシと弾く演奏のように思っていたけど、力強いの中にも優しさが覗くようになったと聴こえる。低音域の音が響き、減衰が僅かに遅くなったせいなのだろうか。ヒラリー・ハーンのヴァイオリンに若さだけではなく優雅さも身にまとったように聴こえ、とても心持がよい。オイストラフやフリッツ・クライスラーの弦もいいけど、若さ溢れる弦に惹かれる。



 前段にMUSES03Dを入れた方が明るくて鮮明なように思えるのは、MUSES03Dの解像度がOP42より高いのだろうか。でも、前段にOP42が来た方が一音一音の分離度が高いまま少し落ち着いた音になり音楽的なように聴こえる。当分は前段にOP42、後段にMUSES03Dを入れて聴こうと思う。DACは古いけれどもDSD128を聴くわけでもないのだから、デジタル部分での差は少ないようで、オペアンプがどこまで表現しきれるかがポイントのように思われる。
 CDを買って余りにもガッカリしたスプリングスティーンの『闇に吠える街』を久しぶりに聴いてみた。このアルバムはスプリングスティーンのもっともエネルギッシュなころの一枚でレコードを何回も聴いたけど、借り物だったので返した時にCDを買って聴いたら、エネルギー感の無さにお蔵入りした。聴き直して久しぶりに躍動したけれど、やっぱり何か足りない。アダムとケインのシャウトするところや、キャンディーズルームの高音域のギターがチョーキングする部分などなど突き抜けるところが足りないように思える。エッヂの立ったところを1rほどの面取りをしたような感じで、高額なCDデッキを聴いても思うところだ。思い込みでCDは破綻せずまとまりが良いと潜在意識がはたらいているのでしょうか。でも、少々お高いとは言え、4つで7,000円もしないオペアンプの交換でここまでグレードが上がれば実に愉しい。


 一ヶ月ほどたったのだろうか、布団にくるまってリヒテルのショスタコーヴィッチを聴いていたら、とても響きの良いピアノの音に機材を顧みてしまった。スピーカーはLS3/5aでプリアンプはE-470、パワーアンプが真空管B300TU8600Rである。ソフトドームのツイーターだから出る柔らかくて凛として響くピアノの高い音に低音の伴奏がおおらかにくるんでくる。夜更けの静けさがSN比を向上させているのだろうか、MUSES03の細やかさが突然目覚めたかのようだ。リヒテルの弾いている匂いが漂ってくるかのように思えるほど綺麗な音である。




OP42 JRC5534

MUSES03 OP42

OP42 MUSES03