2020年はコロナ過の状況もあって、飲み会もなく音楽ばかり聴いていた。媒体もレコード、CD、ハイレゾデータといろいろな種類のものを購入してハイブリッドな年になった。そういう中でハイレゾな新しい録音アルバムは総じて優れたものが多いように思うのだが、音圧が高くなっていることは気になる。これもヒスノイズを低減できたので音圧を上げてダイナミックレンジが得られるということだし、非力なDAPでも十分な音量を稼げるということなんだと思うけど、なにせiPhoneにすら音楽を入れておらず、もっぱらアンプとスピーカーで聴いている者から観るとなんだかなぁとなるのである。まぁボリュームを都度合わせれば済むことなのだけど。
さて、レコードに関しては古いソースばかりになるのだけど、その中ではアル・ディメオラのCASINOが良かった。初期の頃の作品で速弾きのギターサウンドを聴いて懐かしく想い、このころからロックとジャズの垣根がなくなったのを想いだす。ロックではロイ・ブキャナンのLoading Zoneを聴くと既にこのころにギターの一つの頂点だったように思う。この手のサウンドを聴くとブルース・ギターを聴きたくなってしまうところが天邪鬼なのかもしれない。クラシックではカルロス・クライバー指揮のこうもり、これはシュトラウスのオペラでワルツにのった歌劇が聴ける。カルロスの指揮でウィーンフィルが絶妙な音を奏でていて、ルチア・ポップの張りのある若々しい唄声が絶賛。カルロス・クライバーとウィーンフィルは非常に良い組合せで4弦の重なりと音の消え方が心地良い。次にパブロ・カザルスのチェロでバッハの無伴奏チェロ組曲、LPだと3枚組になり、とても一気に聴き通す力はないのだけど音量を上げて聴いた時の震える部屋が刺激的で、こんなに暴力的に思える音がチェロから出るとは思わなかった。だからと言って音楽性を損なうなどと言うことではなく、チェロの持つ能力をフルに弾き出すカザルスに感嘆するばかりである。
CDではメルニコフのSonatas for… これはヒンデミットのソナタでメルニコフのピアノと各楽器のデュオになっている。角ホルン、チェロ、トロンボーン、ヴァイオリン、トランペットと何を聴いても心が洗われる。2015年の録音だけあって音質も素晴らしく、オーディオのリファレンスとして使える。オーケストラのように音の分離や解析みたいなことには不向きだけど、各々の楽器の響きの聴こえ方と拡がり方で情景が写される。こういうCDを聴いてしまうとハイレゾの高価で重量級の保存容量を使わなくてもと思えてしまう。2枚目もピアノでイリアーヌ・イリアスのDreamerで、彼女がピアノを弾いて唄うジャズになっている。ジャズヴォーカルでピアノを弾いて唄うと言えば、ダイアナ・クラークが有名だけど彼女のような粘っこさはなく、端正でふくよかというちょっと風変わりな声質に思える。2004年の録音だけど、ピアノの音がリアルでヴォーカルとのミックスも素晴らしく、マスタリングと録音の質が高くとても気持ちいい。次もクラシックになってしまうのだけど、ちょっと古くてテンシュタットのマーラー2番、しかも北ドイツ放送交響楽団の演奏である。とにかくオーケストラの力を振り絞るような演奏で、こちらもついつい握りこぶしに力が入ってしまう。おかげでCD2枚を通して聴いたあとは、はぁーとため息が出る。こういうのはさすがに分離がよくて定位がピタッと決まるようなスピーカーと一瞬の力が出て明晰なアンプで聴くことが望まれるのだが、金銭的なことを考えると素晴らしいヘッドフォンを買った方が近づけるのかも知れない。もっとも凝り出すと何を買っても際限の無いのがいけない。しかも、お金をかけたら良くなるかというとそうでもないから困った話である。
最後にハイレゾソースですが、ジミー・コブの最新アルバム・This I Dig of Youは古いジャズファンなら何も言わず頷き、若い人にとっても痛快ではないだろうか。91歳には思えないドラミングは力強さを与えてくれるし、ピーター・バーンスタインのフルアコタイプのギターサウンドが桃源郷へと導いてくれる。ジャズ伝説のカインド・オブ・ブルーから60年、伝説のドラマーも鬼籍に入られ、ハイハットの音を聴きながら哀悼を捧ぐ。次もジャズだけど、ゴーゴー・ペンギンのGoGoPenguin、マンチェスター出身の3人組でジャズのようなクラシックの現代音楽と言えるように思える。とても3人で奏でているとは思えないほど重厚なサウンドで、異次元な境地に彷徨う感覚、音が重いのに宙に浮いている錯覚にとらわれ、どことなくブライアン・イーノを連想させる。40年前にペンギン・カフェ・オーケストラなるレコードを買ったけど、ペンギンと名が付くと前衛的になるのかしらん。ウーハーのデカいスピーカーで聴いてみたいものだ。
クラシックでは、ヴァシリー・ペトレンコ指揮、ロイヤル・リヴァプール・オーケストラのショスタコーヴィチ交響曲7番と11番、とても小気味よいアンサンブルで音の締りが気持ちよく、リズミカルでポップな雰囲気がムラビンスキーやコンドラシンでは聴けないショスタコーヴィチを映し出している。
そしてバルトークの2台のピアノと打楽器のソナタ、ピアノ協奏曲3番。ピアノの演奏はシャンドール・ジェルジでバルトークの弟子でピアノ協奏曲3番の初演を行ったピアニストです。旧い録音を起こし直してレーベル2xHDがDSD256にしたもので、音のリアリティにあんぐりしてしまう。ピアノの音が明晰で繊細なのに音のタッチは柔らかい、オーケストラの各楽器の音の分離も良くて優れものです。2台のピアノと打楽器のソナタも秀逸でピアノとピアノの重なりのセンターに太鼓の音が沈み込み、余韻の振れが音楽になる。これ、マスタリングした人が気になる一作です。
そして最後もクラシックでエルガーのチェロ協奏曲、JOHANNES MOSERという中堅のチェロ弾きです。チャイコフスキーとの組合せアルバムから切り離されて$5.98とお買い得なので買ってみたら、とっても気に入りました。PCM96kHz_24bitでレーベルはPENTATONEです。チェロの持つ音の響きがカチッとしていて存在感があり、それでいて哀愁ある音色をのぞかせてスピーカーの際に立っているんです。